ある日歯科医院にて：　毎日が日曜大工　何か楽しいこと探そう！：SSブログ

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ある日歯科医院にて　[雑記帳] [編集]

食事中、前歯の差し歯を折ってしまい、近所にある掛かりつけの歯科医院へ駆け込んだ。

本来、予約前提の医院なので、割り込み受診で気がひける。
ここの先生は、北大の歯学部の講師を兼任していて、実習生を頻繁に受け入れている。

受付窓口で今日初めて見る若く可愛い歯科衛生実習生が満面の笑みで快く迎えてくれた。

きっと、先生は、接客マナーから厳しく指導されているのだろう。

間もなく、診察室に呼ばれて、治療の後、型を取り、次回の通院までの仮歯を入れてもらって

ようやく、歯抜けじじい状態から脱して、ほっとしてあたりを見回すと

遠くの受付の彼女とピッタリ視線が合ってしまい、彼女からまたしてもにこやかに目礼されてしまった。

ええっ、偶然かな　こんなに遠いのに

ひょっとして、彼女の眼は、好みのタイプのおじさんの私をずっと追っていたのかも！

受付で、支払いする段になり、私の想像は、ますます確信に近いものになってきた。

潤んだ瞳で、更にフレンドリーな笑顔で応対してくれるのだ。

あ～、何十年ぶりだろ～この高揚感は！

去りがたい思いで、受付前の洋服掛けから、かぶってきたキャップを手にした時、

彼女の笑顔の正体が、これだったことに初めて気が付いた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　FLAIR HAIR VISOR

あわてて飛んで来たので、防寒用に買ってあったお笑いキャップをかぶってきてしまったのだ。

彼女は、ふさふさの銀髪を逆立てて駆け込んできた客と、受付でバイザーを取った後の頭髪とのあまりのへだたり、ギャップに大サプライズしていたのだ。

彼女の潤む瞳は、涙がでるくらい、笑い転げたいのを必死にこらえる満面の笑みだった。
しかし、嘲りとは無縁の限りない親愛の表情と見たのは、私の勝手な思い過ごしか？

恥ずかしいのは確かだが、こんなに喜んでくれた彼女には、ジョーク好きな、可笑しなおじさんと好感をもたれてエンディングにしたかった。

私は、見守る彼女の目前で、努めて平静を装い、あわてず、騒がず、再びお笑いキャップをゆっくりとかぶり

にっこり、彼女に挨拶して医院をあとにした。

一週間後、出来ているであろう差し歯を入れるため、再び歯科医院を訪れたが、もう可愛い彼女はいなかった。

しかし、これからも、きっと、きっと、ずっと、ずっと彼女は、私のことを忘れないでいてくれるだろうと思う。

・・・・・と思いたい。